【フェルメール《真珠の耳飾りの少女》】 今、目があいました?
こんにちは。
今見てました? 目があったように思いましたけど。
いいんですよ、こちら側に興味があるんでしょ? わたしもそちらが気になるので時々見てるんです。
ふとした時に振り向くので、ちょっと油断した感じになっちゃって。
わたし… 口が開いてることがよくあるんです。
え? こちら暗い?
いえいえ。とても明るいですよ。よく光があたって眩しいくらい。
わたしの肌、見えてますか。白いでしょ。ちゃんとお手入れもしてるんですけどね。よく言われますけど、わたしの瞳と唇と耳飾りが輝いてませんか?
この真珠の耳飾りはお気に入りなんです。びっくりするくらい大きいでしょう。ターバンの青も好きでお洋服と合わせてるけど、光があたるとこんなに澄んだ色になるんですよ。当時は船で世界がつながっていた時代ですから、目新しいものが身近にあったんじゃないですかね。
こちらが暗く見えてるのは、そもそも習作だからなんて言われてますけど、ここにはそちらからの角度からは見えない世界がひろがっているんですよ。不思議でしょう?
フェルメールさんにとってわたしは、少女の抽象的な存在というか… そんなわたしが特徴のあるターバンを巻いて、大きな真珠の耳飾りをつけて。
なんだかギャップがあって面白くないですか?
なんとなくこの白い襟が目立っていると思うんです。これがなかったら全体がもっと暗くなってると思うんですよね。ちょうどわたしの真ん中あたりにありますし、印象を左右するポイントになってるんじゃないかなって。
わたしのこと、モナ・リザさんみたいって言う人がいますけど、それは目が合うからですか? モナ・リザさんにぜひ会ってみたいんです。好奇心旺盛な方なんでしょうか?
わたしたちが見つめあったら、きっと面白いお話ができるような気がします。
ふふ…… わたし、フェルメールさんをよく知っているんですよ。毎日のように会っていたから。目の前のことにすごい時間をかけて注力する人だから、現代に残った絵の中によく似てるものを見つけられるかもしれないですね。
いつも一瞬ですよ、お会いするときは。
どなたもそうなんです。だから毎日が楽しみなんですよ。
遊びに来てくださいね。
わたしがいないときはここは真っ暗かもしれないけど、ときどき見に来てますから。
今…… 目は合ってますか?
作品:ヨハネス・フェルメール 《真珠の耳飾りの少女》 1665年頃 マウリッツハイス美術館