【フェルメール《デルフトの眺望》】 彼は世界を構築したんだ!
なんだこれは! 街だ! デルフトだ!
マウリッツハイス美術館に突然デルフトが現れたぞ!
ここはハーグなのになんてことだ!
これは風景画ではあるけれども、17世紀の街の一部をその眺めから切り出してきている。
そんな感触だ。
オランダの画家の絵は、オランダの肖像だと言われる。
確かにそのようでもあるが、これはもはや絵ではない。
確かにこれは風景画ではあるが、フェルメールが手がけたのは「デルフト」なのだ。
まず上空近くに掛かる重たそうな雲。これは雨雲のようだが、向こうに見える他の雲の状態を考えると、この絵が雲に突き刺さったかのようにも見える。さらに言えば、下側には人々が小さく並ぶ岸がある。つまりは雲と岸が絵の中のもう一つの額縁になっているわけだ。これによって風景というよりは、まさに中央のデルフトが切り取られたようになり、街の一部が浮かびあがってくるのだ。絵画自体の形状がやや正方形に近づいているにも関わらず、横長の風景を感じるのはこのためだ。
雲に遮られていない太陽の光は街の向こう側を照らして、尖塔が見える新教会のあたりが明るくなっているのが分かるだろう。塔の先が今にも雲に触れそうだ。
この絵にはもう一つデルフトがある。みなさんお気づきだと思うが、河の水面に映った影のデルフトだ。見事に対称を描いて建物がかたどられているだろう。
驚くのは右手にある水門だが、岸が手前に退いている効果もあいまって、この一部分は画面からこちらに飛び出てきているようなのだ。これは物質ではない。もろく崩れ去るイメージの集合体なのだ。
この絵の前では誰しも驚きを隠せない…… そう、私やあのプルーストのように。
フェルメールはここにデルフトを具現化させた!
彼は世界を構築したんだ!
作品:ヨハネス・フェルメール 《デルフトの眺望》 1660-61年頃 マウリッツハイス美術館